
12 AIの長い歴史:機械仕掛けからニューラルネットワークまで
現在、大きな注目を集めている生成AI。その技術的基盤は、長いAI研究の歴史の上に成り立っています。この章では、古代の機械仕掛けから始まり、現代のニューラルネットワークに至るまでの、AIの進化の軌跡をたどってみましょう。
古代~中世:オートマタの夢
人間は、古くから人工的な知能や生命体への憧れを持っていました。その夢は、自動人形(オートマタ)という形で表現されます。
- 古代ギリシャの自動機械: ヘロンが製作したとされる、水力や蒸気で動く自動人形。
- 中世イスラム世界の自動機械: アル=ジャザリが著書『巧妙な機械装置に関する知識の書』で紹介した、精巧な自動機械。
- 日本の「からくり人形」: 江戸時代に作られた、茶運び人形などの精巧な人形。
これらは、現代のAIとは直接的なつながりはありませんが、人間の「知能を機械で再現したい」という願望の表れと言えるでしょう。
17~19世紀:論理と推論の機械化
近代に入ると、人間の思考を機械で再現しようとする試みが本格化します。
- 計算機の登場: パスカルやライプニッツらによって、機械式の計算機が発明されました。
- ブール代数: ジョージ・ブールは、論理演算を代数的に表現する「ブール代数」を考案しました。これは、現代のコンピュータの基礎となる重要な概念です。
- バベッジの解析機関: チャールズ・バベッジは、プログラムによって動作する機械式計算機「解析機関」を設計しました(未完成)。
これらの発明は、思考の機械化、すなわちAIへの道を切り開く、重要な一歩となりました。
20世紀前半:AI研究の黎明期
20世紀に入ると、AI研究は本格的なスタートを切ります。
- チューリングテスト: アラン・チューリングは、「機械は思考できるか?」という問いを提起し、その判定基準として「チューリングテスト」を提案しました。
- ダートマス会議: 1956年に開催されたダートマス会議で、「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉が初めて使われ、AI研究の重要なマイルストーンとなりました。
- 初期のAIプログラム: チェッカーやチェスなどのゲームをプレイするプログラムや、簡単な推論を行うプログラムが開発されました。
この時期は、AI研究の黎明期であり、様々な可能性が模索されました。
20世紀後半:エキスパートシステムとAIの冬
1980年代には、特定の分野の専門家の知識をルールとして記述し、推論を行う「エキスパートシステム」が注目を集めました。
- MYCIN: 感染症の診断を行うエキスパートシステム。
- DENDRAL: 化合物の構造を推定するエキスパートシステム。
しかし、エキスパートシステムは汎用性に欠け、複雑な問題には対応できないという限界がありました。そのため、AI研究は一時的に停滞し、「AIの冬」と呼ばれる時代を迎えます。
ニューラルネットワークの復活と機械学習
1980年代後半から、人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」の研究が再び注目を集めるようになります。
- バックプロパゲーション法: ニューラルネットワークの学習アルゴリズムである、バックプロパゲーション法が開発されました。
- 機械学習: 大量のデータから、コンピュータが自動的に学習する「機械学習」の手法が発展しました。
- ディープラーニング: 多層のニューラルネットワークを用いた「ディープラーニング」の登場により、画像認識や自然言語処理などの分野で飛躍的な進歩を遂げます。
そして現在、ディープラーニングを基盤とした生成AIが、社会に大きなインパクトを与えようとしています。
AIの歴史は、試行錯誤と技術革新の連続でした。現代の生成AIは、長い研究の歴史の上に成り立っているのです。
次回は、「機械学習の進化:データから学習するコンピュータ」と題して、生成AIを支える重要な要素技術となった機械学習について深掘りします。