03 インターネット前夜:パソコン通信の熱狂と、新しい波の予感

03 インターネット前夜:パソコン通信の熱狂と、新しい波の予感

ダイヤルアップ接続の音色が響くより前、パソコンはまだ一部の愛好家たちだけのものでした。しかし、その限られた世界の中で、熱いコミュニケーションが繰り広げられていたのです。今回の舞台は、インターネット登場前夜。パソコン通信が全盛を極めた時代へとタイムスリップしてみましょう。

「パソコン=マニア」の時代:8ビット/16ビット御三家の時代から

1980年代後半から1990年代初頭、パソコンは一般的な家電製品とは言い難い存在でした。NECのPC-9800シリーズ、富士通のFM TOWNS、シャープのX68000などが「御三家」と呼ばれ、熱心なファンを魅了しました。これらのマシンは、ゲームやホビープログラミングを楽しむ道具として、あるいは一部のビジネスユーザーが使う「高価なおもちゃ」として認識されていました。

多くのアマチュアプログラマーを生み、後のゲーム業界で活躍する人材を輩出する土壌にもなりました。

「草の根BBS」から「NIFTY-Serve」へ:パソコン通信の隆盛

この時代、パソコンユーザーたちのコミュニケーションの中心にあったのが「パソコン通信」です。モデムを介してホストコンピュータに接続し、電子掲示板(BBS)やチャットで交流する。今でこそ当たり前の光景ですが、当時は非常に画期的なコミュニケーション手段でした。

  • 草の根BBS: 個人がホストとなり、運営する小規模なBBSが多数存在しました。趣味の合う仲間が集まり、ニッチな情報交換が行われていました。
  • 商用パソコン通信: NIFTY-Serve、PC-VANといった大手サービスが登場し、会員数を急速に拡大。企業が提供する安定した環境と、多様なフォーラム(会議室)が魅力でした。
  • 「パソコン通信語」の誕生: 限られた帯域幅の中で効率的にコミュニケーションするために、独自の省略語や顔文字が生まれました。

雑誌で見る「インターネット」:未知なる世界への憧憬

パソコン通信で盛り上がる一方で、一部のパソコン雑誌では「インターネット」という言葉が徐々に登場し始めます。しかし、「TCP/IP」「WWW」「ブラウザ」といった専門用語が並ぶ記事は、多くの読者にとって難解なものでした。

  • 「インターネットって何?」: 「世界中のコンピュータがつながるらしい」「アメリカではやっているらしい」といった断片的な情報が、人々の好奇心をかき立てました。
  • 「電子メール」への驚き: 「手紙が瞬時に届く」という、当時としては画期的な概念に、多くの人が衝撃を受けました。
  • 「ハイパーテキスト」への期待: 「文書内のリンクをクリックすると別の文書に飛べる」という仕組みは、情報の新しい可能性を感じさせました。

この頃のパソコンユーザーにとって、インターネットはまだ遠い世界の話でした。しかし、雑誌のページをめくるたびに、その未知なる可能性への期待は膨らんでいきました。

パソコン通信が切り開いたオンラインコミュニケーションの楽しさ。そして、インターネットという新しい波が、すぐそこまで迫っているという予感。時代の熱気は、確実に高まっていたのです。

次回は、いよいよインターネット黎明期に突入します。新たな技術は、どのようにして人々に受け入れられていったのでしょうか?